LBJ附属動物病院

トップ > 早期不妊手術に関する参考文献 > 要約集

要約集

犬と猫の早期の避妊手術・去勢手術 (レビュー) Olson PN et al : J Reprod Fertil Suppl 57:223-32 : Early-age neutering of dogs and cats in the United States (a review)

性成熟前性腺摘出は、アメリカで一般に行われるようになっています。
方法としては子犬と子猫が譲渡される前の7週齢で行われており、麻酔ならびに手術手技は安全であることは分かっていますが、健康及び行動に対する長期的な効果は現在調査中です。

早期不妊手術は、年間数百万頭の安楽死されている犬や猫の過剰に対する一つの解決策です。動物の避妊去勢はペットの数を制限するために有効ではありますが、他の要因についても考慮する必要があります。さらに、多くの動物が望ましくない行動のためにシェルターに収容されています。
この文献では、メリカにおける早期不妊手術について述べるとともに、子犬子猫で行われている手術方法について科学的に考察しています。

早期不妊手術は、犬と猫の成長を阻害することはありませんが、猫に関しては代謝率に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

麻酔と外科手技は、子犬、子猫に対しては安全であり、死亡率は低く、成熟動物よりも回復は早いとされます。副作用は、7ヶ月よりも7週齢で多いということはありませんでした。

犬猫の不妊時期:ニューヨーク州の獣医師の実際と信念の調査 (要約) C. Victor Spain et al: J Am Anim Hosp Assoc 38[5]:482-488 : When to Neuter Dogs and Cats: A Survey of New York State Veterinarians' Practices and Beliefs

アニマルシェルター団体の多くの人は、シェルターに捨てられる犬猫の数を減らす重要なステップとして、子供のうちの不妊(すなわち、オス、メスの性腺摘出)を認めてます。 その処置の安全性は獣医師の間でいまだ議論されていますが、最近の研究で安全問題については評価され、リスクの増加は認められていません。 この研究の目的は、ニューヨーク州の開業獣医師の「犬猫の不妊を行うべき時期」に関する信念と実際、それらの信念や慣習が獣医師の性別や他の要因、例えば大学の卒業した年や早期不妊の経験などで変化するかどうか調査する事であります。

アンケートでは、早期不妊は4ヶ月齢以下での施術として定義しました。 616通のアンケートを無作為に郵送し、412人(66.9%)の獣医師から部分的または完全回答を得ました。 獣医師の大多数(70.6%)は全ての飼育動物に不妊を普段から勧めており、アニマルシェルターでの譲渡前の不妊を支持していました(90.3%)。 シェルターの動物は譲渡前に不妊するべきでない回答したのは26人(6.5%)で、主に男性(88.0%)にその傾向があり、シェルターでの動物の不妊に賛同している人よりも早く(中央値、1974年)大学を卒業していることが分かりました。

その理由は実利的な競合、ケアーの質などが挙げられました。

この研究で多くの獣医師は、認知している早期不妊の少なくとも1つのリスクよりも(84.4%)、分かっている利点(91.3%)を報告していました。 少なくとも1つの利点があると報告した獣医師は、そう報告しなかった獣医師よりも後で大学を卒業していました(中央値の差、9年)。

報告された利点は、過剰ペット頭数、乳癌の発生率、問題行動の低下でした。

早期不妊に関して認知しているリスクファクターとして報告されたもので共通して挙げられたのは、麻酔リスクの増加、猫の下部尿路疾患など医療問題の素因となる等で、手術が安全と考えるのに情報が不十分との回答でした。 しかし早期不手術妊を経験している獣医師達によると、このリスクファクターは問題にならないとしていました。

獣医師が不妊手術を推奨する時期として、手術適齢は一般的な基準(2回目のワクチン接種済み)とのことでした。 犬猫が通常不妊するべき最も早い時期についての質問で、飼育ペット(5ヶ月)よりもシェルターの動物(3ヶ月)の方が若いという結果でした。 約1/3の獣医師は、飼育動物の不妊の最低年齢は、実際に行っていた年齢よりも若くなっていると回答しています。

著者は、不妊の理想年齢とする6ヶ月を支持するデータはないとして、飼育ペットの不妊年齢はワクチン接種の完了に依存した4,5ヶ月以下で可能だと締めくくっています。

子犬の中性化手術 (要約) Rob Hilsenroth : Canine Pract 24[1]:24 : Pediatric Neutering of Dogs

子犬の中性化手術の安全性、有効性、長期効果について、比較的少数の文献があるのみとなっています。 入手できるデータによると、この方法は安全で効果的であるといわれていますが、具体的ではありません。 このため"子犬の中性化"プログラムは、160頭以上を7週齢で中性化、もしくは、8ヶ月齢で中性化、の2グループに無作為に分けて行われました。 これらの犬は家庭で飼育され、市販のフードが与えられ、身体検査、成長特性、行動特性についても評価されました。 この結果は、子犬の中性化手術を客観的に検討するために、獣医師と動物愛護協会の人たちに役に立つものと思われます。

6~14週齢の子猫の中性化手術手技 (要約) Aronsohn MG et al : J Am Vet Med Assoc 202[1]:53-5 : Surgical techniques for neutering 6- to 14-week-old kittens

6~14週齢の96頭の子猫(オス48頭、メス48頭)に対して中性化手術を行いましたが、深刻な麻酔合併症、術中・術後合併症は見られませんでした。
ガイドラインに沿って施術すれば、子猫の中性化手術は安全に行うことができます。
それには完全な術前評価を行う、静かで暖かい術前・術中・術後環境、取り扱いを最小限にする、出血のコントロールを確実にする、回復後早期に食餌を与えることで低血糖の防止、回復が遅くなれば糖を経口もしくは静脈投与する、ことがあげられます。

犬と猫の性成熟前の性腺摘出術:第1部 (要約) JOURNALS ABSTRACT (Lisa M. Howe et al;Compend Contin Educ Pract Vet 21[2]:103-111 Feb'99 Prepubertal Gonadectomy in Dogs and Cats-Part I

未成熟での中性化手術は、動物の数を抑制するために動物愛護協会で一般的に行われています。
このことに関して獣医界では、中性化手術に適した科学的な根拠を持たないにもかかわらず議論をしています。いくつもの研究により6週齢で中性化手術を行ってもその安全性は証明されていますが、多くの獣医師はその年齢での麻酔と手術を行いたがりません。
第1部では成熟前の性腺摘出術の歴史、身体的影響、麻酔、手術に関して、述べたいと思います。
第2部では手術自体の安全性とともに、成熟前の性腺摘出術の安全性についても述べたいと思います。

犬と猫の性成熟前の性腺摘出術:第2部 (要約) JOURNALS ABSTRACT (Lisa M. Howe et al;Compend Contin Educ Pract Vet 21[2]:103-111 Feb'99 Prepubertal Gonadectomy in Dogs and Cats-Part II

1993年にAVMAで早期性腺摘出術が承認されて以来、保護された動物にはこの手術を行うことが通例となっています。
獣医師は、若齢の子犬や子猫と、成熟動物での手術の相違を知る必要があります。 さらに生理学的な違いがありますので、それに注意を払いつつ麻酔を行うべきです。
多くの動物愛護協会や動物病院では、過剰なペットを減らす解決策として早期不妊手術を推進しています。
第1部では、成熟前の性腺摘出術の意義および麻酔ならびに術前の注意について述べました。
第2部では、手術の安全性と手術方法に関する文献について考察します。

性成熟前の性腺摘出をした猫の身体や行動はどう発達するか(要約) Stubbs WP et al;J Am Vet Med Assoc 209[11]:1864-71 Effects of prepubertal gonadectomy on physical and behavioral development in cats

目的

性成熟前に性腺摘出すると猫の身体や行動にどんな影響を与えるのか調査しました。

枠組

この研究では無作為に子猫を3つのグループに割り当てました。

1群:7週目で不妊手術
2群:7ヶ月で不妊手術
3群:無処置

動物

臨床的に異常のない31頭の猫

方法

橈骨遠位の骨端軟骨閉鎖の時期と成熟した橈骨の長さをX線検査で調べ、6つの行動の特徴を月ごとに記録しました。1歳時の体重とX線検査で鎌状靱帯の厚さを腹部ラテラルで測り記録しました。

結果

1群と2群の間には全く変わったところはありませんでした。無処置の猫(3群)は2群の猫より体重は軽く、鎌状の脂肪は少なく、そして2群と3群の猫より早く橈骨骨端軟骨の閉鎖が見られました。3群は明らかに種内の攻撃性が大きく、愛想が無く、2次性徴が他の群より顕著に発達しました。

臨床との関わり合い

7週で不妊した猫は身体や行動面の発達で、伝統的に7ヶ月で不妊した猫と比べても効果は変わりませんでした。それらのデータは、思春期前の性腺摘出の概念を支持し、そしてすでに多くの動物シェルターや団体でペットの数をコントロールする効果を高める方法として実行されています。

犬と猫での早期中性化の重要性 (要約) Stubbs WP et al : Semin Vet Med Surg (Small Anim) 10[1]:8-12 : mplications of early neutering in the dog and cat

犬と猫の早期不妊手術はペットの数をコントロールするための安全で効果的な方法で、手術手技は臨床獣医師にとってすでに慣れたものであるため、動物のリスクは最小限にすることができます。

利点として手術時間が短いこと、腹腔内が見やすいこと、術後の回復が早いこと、が挙げられ、また早期不妊手術による犬と猫の骨格、身体的、行動学的な悪影響はないと思われます。

若齢犬の性腺摘出:骨格や体や行動の発達に対する影響 (要約) Salmeri KR et al;J Am Vet Med Assoc 198[7]:1193-203 Gonadectomy in immature dogs: effects on skeletal, physical, and behavioral development

性成熟前の性腺摘出は、骨格の成長、体重の増加、食餌の食べ方、体脂肪、中性化の特徴、行動の発達にどう影響するのか、32頭の雑種を15ヶ月間調べました。
5頭のメスから生まれた兄弟32頭で雄と雌の子犬をランダムに3グループに割り当てました:

1群・・・7週目で避妊もしくは去勢(n=14)
2群・・・7ヶ月で避妊もしくは去勢(n=8)
3群・・・無処置(n=10)

成長板の閉鎖はすべての中性化した犬において、無処置の犬に比べて遅れが見られました。(1群と3群P<0.000001;Ⅱ群とⅢ群P<0.000001)
7ヶ月で中性化した犬に比べて7週目でのものは成長板の閉鎖がより遅れました。(1群と2群P<0.000045)
成長速度は性腺摘出では影響を受けませんでしたが、7週で中性化した犬すべて(雄雌共)は、その成長期間が延長したことにより最終的により長い橈骨/尺骨になりました。

性腺摘出は食餌の食べ方や体重増加、背中の脂肪の厚さに影響しませんでした。

ペニスの発達は1群(mean +/- SEM diameter of pars glandis = 11.1 +/- 1.0 mm)の成犬で2群(16.3 +/- 0.5 mm)や3群(21.0 +/- 2.2 mm)の犬より未熟でした。
主観的に包皮や陰茎骨も1群は2群や3群より未熟でした。
1群と2群の陰門は、3群のメスほど発達しませんでした。

7つの行動の特徴(一般的な活動性と興奮しやすさの相違)を評価しました。
すべての中性化した犬は無処置の犬よりもっと活動的と判断しました。(1群P<0.004)
1群のオスは3群より興奮しやすいと判断しました。(P<0.02)

骨格、体、行動の発達を考慮しますと7週で中性化した場合も7ヶ月で中性化した場合と同じであると結論付けました。

6~14週齢の子犬の中性化手術に用いる麻酔プロトコールについて(要約) Alica M. Faggella et al;J Am Vet Med Assoc 205[2]:308-314 Evaluation of anesthetic protocols for neutering 6- to 14-week-old pups

6~14週齢の99頭の子犬に対して10種類の麻酔方法を行い、麻酔ごとにその状態を評価しました。

オスではアトロピン(0.04mg/kg)とオキシモルフィン(0.22mg/kg)投与15分後に プロポフォール(6.5mg/kg)を静脈内投与したものが最もよい麻酔状態でした。
オキシモルフィンのかわりにミダゾラム(0.22mg/kg)とブトルファノール(0.44mg/kg)を筋肉内投与すると鎮静作用はほとんどありませんが、良好な麻酔導入ができます。
アトロピン/オキシモルフィン/ミダゾラム/キシラジンの麻酔、アトロピン/ブトルファノール/ミダゾラム/キシラジンの麻酔、tiletamine/zolazepamの麻酔は、6~14週齢の雄犬の去勢手術には不十分な麻酔です。

メスでは、アトロピン(0.04mg/kg)、オキシモルフィン(0.11mg/kg)の筋肉投与15分後にプロポフォール(3.4mg/kg)を静脈投与することが最も効果的な麻酔です。 この麻酔方法は、気管挿管をスムーズに行うことができます。
維持麻酔としてイソフルレンを使用します。もし、吸入麻酔薬により麻酔導入する場合には、tiletamine/zolazepamを13.2mg/kg、アトロピン0.04mg/kgおよびオキシモルフィン0.11mg/kg、もしくは、ミダゾラム0.22mg/kgおよびブトルファノール0.44mg/kgをマスク導入の前に筋肉投与します。
メスの子犬の場合、ミダゾラムにオキシモルフィンを加える利点はなく、オキシモルフィンの高容量(0.22mg/kg)もしくはミダゾラム/ブトルファノールはほとんど鎮静作用はありません。
tiletamine/zolazepamを用いたものが最も回復に時間がかかりましたが、子犬に害は認められませんでした。

雄犬は陰膿切開を行って去勢手術をし、止血クリップを使用しました。
卵巣子宮摘出術は腹部正中切開を行い、結紮のかわりにに止血クリップを使用しました。
メスの子犬5頭では術後1~2週で炎症がひどくなりましたが、局所を温めることで治療しました。

猫で早期及び伝統的年齢で行った中性化手術の長期的結果について (要約) Lisa M. Howe et al ;J Am Vet Med Assoc 217[11]:1661-1665 Long-Term Outcome of Gonadectomy Performed at an Early Age or Traditional Age in Cats

目的

中性化手術を行った猫で、早期(性成熟前)もしくは従来の年齢で行ったときの長期的合併症を検証しました。

実験デザイン

大規模試験

供試動物

シェルターからの猫263頭

方法

手術した年齢をもとに2群に分けました。(24週齢以上のものを伝統的手術年齢群、24週齢以下のものを性成熟前手術群)
譲渡後の新しいオーナーに身体的、行動学的問題に関して電話による調査を行いました。
追跡調査は、問題が起きて動物病院を訪れたときなどに行いました。

結果

伝統的手術年齢群、性成熟前手術群ともに感染性疾患、問題行動および身体的特徴に関して、追跡調査を行った37ヶ月に差は認められませんでした。 さらに譲渡先での放棄率に関しても、伝統的手術年齢群、性成熟前手術群ともに差は認められませんでした。(早く手術した群で放棄が多いということはないということです)

臨床的意義

性腺摘出し少なくとも3年後の時点では、身体的、行動学的な問題が増加しているということはなく、猫においては早期不妊手術は安全といえるのではないでしょうか。